今回お話するのは
選ばれし者の剣
選定の剣
です。
決められたものにしか抜けない剣って仕組みはどうなってるんですかね・・・。
選定の剣とは?
選定の剣は一般には「エクスカリバー」というアーサー王の剣という認識です。
ですが、ことアーサー王伝説などにおける「選定の剣」とは
剣を抜いた者の身分や偉大さを証明する
といった役割を持つ剣とされます。(舞台装置のようなもの?)
今回はアーサー王伝説において、この選定の剣を抜いた代表的な3名の騎士を紹介していきます。
彼らはどのような経緯で?どのような地位としてその剣を抜いたのか?
- アーサー王
- ベイリン
- ガラハッド
この3人の選定の剣を抜いた騎士達をそれぞれ見ていきましょう。
1人目: アーサー王
選ばれし者にしか抜けない剣を抜いた1人目の騎士は、ご存知アーサー王。
偉大なる王はどのようにして選定の剣を抜いたのか?それを見ていきましょう。
アーサー王の本当の父エクター王が亡くなってから、石に刺さった剣を抜いた者が次の王になる資格を持つという話であった。
王座を狙った諸国の王や騎士たちが次々と挑戦したが、誰一人として抜けず。
そこで、正月元旦に馬上槍試合を盛大に行い、一般の人たちも挑戦できるようにすれば、いつか剣を抜く者が現れると神官達は考え、そうする事にした。
そして、剣が刺さった石は、教会の境内の中で10人の騎士に守られることとなった。
アーサーは15歳の元旦の時、育ての父エクターと兄ケイの3人で、街に馬上槍試合を見に来ていた。
ケイは個人戦の槍試合に参加するつもりであったが、剣を家に置いてきてしまったので、アーサーに
剣を取りに戻りに行って欲しい。
とお使いを頼んだ。
アーサーは引き受けて家に帰ったが、家の者は皆試合を見に行っており、家に入らなかった。
彼は怒り、
『兄のケイの折角の試合の日に剣がないのはいけない。
そうだ、境内に剣が石に刺さってたからそれを使おう。』
と、教会の境内に向かった。
守りの騎士たちは皆馬上槍試合に向かっていたので、だら1人も剣の周りにはいなかった。
アーサーはその剣をスラリと引き抜くと、急いでケイの元へ届けに行くのであった。
出典1: トマス・マロリー「アーサー王物語 1(筑摩書房)」このようにアーサー王はあっさり選定の剣エクスカリバーを抜いた。
ここで以外なのは、アーサー王は『冒険の最中』や、『戦争で追い込まれて』といった定番なシチュエーションではなく、
たまたまお使いの最中に引っこ抜いた
という点です。
ある意味で『運命に選ばれしもの』、『普通の子供が王に選ばれた』といえる。
ただ、この剣は後ほど折れてしまい、2本目のエクスカリバーを受け取る事になります。
重要なのは、
石に刺さった剣を抜いた者が王になる
という事で、アーサー王は選定の剣を手に入れて王となった点である。
2人目: ベイリン
次に選定の剣を引き抜いたのは円卓の騎士の1人である『ベイリン』。
剣を抜いた時、アーサー王の従兄弟を殺害した罪で1年半投獄されていたという・・・。
時はイングランドでの戦乱。
アーサー王は王に即位したが、それを良しとしない11人の王達と戦争を繰り広げていた。
一時休戦となるも、新たに1人の王を加えた12人の王の連合軍と戦争をしていた時。
1人の乙女が立派な剣を携えてアーサーの城に訪れた。
乙女はアーサー王に対し
『この剣を抜ける者を探しているのですが、見つからなくて悲しんでいます。
優れた騎士を探してきましたが、全く見つからないのです。
騎士の中でもとりわけ優れており、悪事にも逆心にも縁がなく、裏切ることもない方はいますか?』
と尋ねてきたのであった。
アーサー王と円卓の騎士達は早速試したが、全員剣を抜くことは出来なかった。
実はそこには牢獄から出たばかりのベイリンが隠れて入り込んでいた。
その時は貧しい騎士であり、周りの目を気にして剣を抜こうとはしなかった。
その後、乙女が宮廷を去ろうとした時にベイリンが呼び止めた。
『私にもその剣を抜くチャンスをください。外見は貧しいですが、心は他の騎士達には負けない自信があります。』
乙女はベイリンの外見を見て、確かに貧しい姿であったが、腕前は立派であると見抜いた。
だが、ベイリンの貧しい姿から、誰からも敬われない騎士と思い、こう伝えた。
『これ以上私を悲しませないで下さい。
他の騎士達に出来なかったのに、あなたが成し遂げるとは思えません。』
と、挑戦をさせないようにしたが、ベイリンは
『あぁ、美しい方よ。
人の価値や威厳はその人の外見だけに宿るものではありません。
その人の内に宿るのです。威厳や勇猛は装いに宿るものではないのですよ。』
これを受けた乙女は納得して、ベイリンに剣を抜かせてみた。
すると、ベイリンは剣を鞘からあっさりと抜いてしまったのであった。
乙女は大変驚き、喜んだか、ある事情により剣を返して欲しいと願った。
だが、ベイリンの返答は・・・・・。
出典1: トマス・マロリー「アーサー王物語 1(筑摩書房)」剣を抜くには『悪心のない潔い者であり、かつ父も母も高貴な血筋』であることが必要。
ですが、果たして彼が剣を抜くに相応しい騎士だったのか?
アーサー王の次に剣を抜いたベイリンは、勇猛で冒険においては確かに活躍をしています。
それでも、全ての徳を兼ね備えた騎士であるかどうかは分からないです。
しかし、この後の3人目のガラハッドによって、ベイリンが選定の剣に選ばれた本当の理由が分かるのかもしれません。
3人目: ガラハッド
3人目に選定の剣を抜いたのがガラハッド。
円卓の最強の騎士「ランスロット」の息子であり、聖杯を手に入れることが出来る唯一の存在でもある。
そんな彼はどのようにして選定の剣を引き抜いたのか?
~世界で最も優れた騎士~
アーサー王は聖霊降臨祭というキリストの復活を祝う祭りを行っていた。
王と王妃、騎士達が祈りを終えて円卓に戻ると円卓の「危難の席」には黄金の文字で
わがイエス・キリストの受難より454年目にしてこの席は満たされるべし
と記されていた。
一行は驚いたが、さらに従者が訪れて
「川に大きな石が流れてきて、その石に一本の剣が刺さっているのです」
と伝えたので、全員がその石を見に行った。
剣にはこう記されていた。
われを石より引き抜く者は、われを腰に帯ぶべき者である。その者はこの世で最も優れた騎士である。
ガウェインやパーシヴァルがその剣を引き抜こうとしたが上手くいかなかった。
そこで、一度円卓の席に戻ると、不思議な出来事が起き、年老いた老人が若い騎士を連れてきた。
老人はその若者を「危難の席」に連れていった。
すると、席にはこう記されていた。
ここは貴公子、ガラハッドの席なり
アーサー王は驚いたが、大いに喜び、ガラハッドを連れて剣の刺さった石の所へと連れて行った。
そして、アーサー王がその剣を誰も抜けないと伝えると、ガラハッドは
「王よ。不思議なことではありません。なぜなら私がこの件を手に入れると分かっていたのですから。それ故に、鞘だけを腰につるしているのです。」
といい、剣をやすやすと引き抜き、腰の鞘に納めたのであった。
出典2: トマス・マロリー「アーサー王物語 4(筑摩書房)」ガラハッドがこの剣を抜いたことで「世界で最も優れた騎士」として認められました。
ですが、もっと面白いのはこの剣は「ベイリンが抜いた剣と同じもの」であるということです。
ベイリンはこの剣を抜くことには成功しましたが、この剣の災いによって死亡しています。
この剣を「世界で最も優れた騎士」以外が抜くと、災いをもたらす。
こういった呪いをあらかじめ示すために、ベイリンはいわば前座として扱われます。
そして、アーサー王、ベイリンと違ってガラハッドは「あらかじめ剣を抜くことを知っていた」といいます。
この後、彼は聖杯探索の度に出発して見事成功させますが、この聖杯探索を必ず成功させるということを、この剣を抜くことで証明しているのです。
まとめ: 剣に選ばれた騎士達
今回は剣に選ばれた騎士達のお話をさせていただきました。
アーサー王は偶然に剣を抜き、ベイリンは自分の力を試すために剣を抜き、ガラハッドはあらかじめ剣を抜くことを分かっていた。
彼らの物語をそれぞれ見ていけば、選定の剣というのがいかに物語において重要な役割を果たしているのかが分かりますね。
という訳で今回のまとめ
- 選定の剣は「選ばれたものにしか抜けない剣」
- 剣を抜いたものの「地位・身分」などを示す重要な役割を持つ
- アーサー王、ベイリン、ガラハッドの3名が代表
- アーサー王はお使いの時、偶然剣を引き抜いた
- ベイリンは自分の力を試すために剣を抜いた
- ガラハッドは自分の剣だから抜くことは知っている
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